第一章 ダークあやつり人形印象記

 冬近い郷里の町の四辻で、僕がこの珍しい広告を見たのは、小学校に通っている幼年の時のことであった。
 生来夢想家で、エキゾチックな憧憬を多分に持っていた僕は、西洋あやつりという不思議な名前、英国人ダークという異国趣味の名前につられて、訳もわからずその劇場へ走って行った。
 もとより幼年の時の事であり、遠い昔の色あせた記憶であるから、今日その印象を書き綴るべく、あまりに漠然とした夢の亡失を感じている。
 しかしながら一面からは、子供の時の印象ほど、かえって強く忘れがたいものはないのである。
 当時この操り人形を見た人は、僕の外にも多いであろう。
 以下自分の語るところに、もし記憶の誤りがあるならば――そしてもちろんあると思う――他の人々のより健全な記憶によって、幸い訂正していただきたく、あえてこの印象を書く次第である。

(萩原朔太郎著「ダークあやつり人形印象記」)